1. ハスターとは
1.1 基本的な概要
ハスター(Hastur)は、クトゥルフ神話に登場する架空の存在であり、「黄の王(The King in Yellow)」「名状しがたきもの(The Unspeakable One)」などの異名を持つ旧支配者(Great Old One)の一柱です。彼の起源はH.P.ラヴクラフトよりも前の作家アンブローズ・ビアスにまで遡ることができ、その後、ロバート・W・チェンバースの小説『黄の印(The Yellow Sign)』を経て、ラヴクラフトの神話体系に組み込まれました。
ハスターはクトゥルフ神話の中でも特に謎めいた存在であり、クトゥルフとの関係性が不明瞭である点や、「その名を口にするだけで危険である」とされる独特の設定が特徴です。彼は通常、カダスや星間の虚空、湖の底などに潜んでいるとされ、人々の夢や幻覚を通じて影響を及ぼします。
1.2 名前の由来
「ハスター」という名前は、最初に登場したアンブローズ・ビアスの作品『Haita the Shepherd』(1893年)に由来します。この物語では、ハスターは善良な神であり、羊飼いの守護者のような存在でした。
その後、ロバート・W・チェンバースの『黄の印』(1895年)において、「黄の王(The King in Yellow)」とともに「ハスター」の名前が登場し、怪異的な存在としてのイメージが強まります。ラヴクラフトの作品では、直接的にハスターを描写したものは少ないものの、彼の神話体系の中で「恐怖の神」としての位置付けが確立されました。
2. ハスターの神話的な役割
2.1 旧支配者としての位置付け
ハスターは、クトゥルフ神話における「旧支配者(Great Old Ones)」の一柱であり、クトゥルフと何らかの関係を持つ可能性があるとされています。ただし、クトゥルフが「海底で眠る邪神」としての側面が強いのに対し、ハスターは「宇宙的な異界に存在し、夢や幻影を通じて人間世界に影響を及ぼす」性質を持っています。
クトゥルフ神話において、旧支配者たちは「星々の配置が正しくなると復活する」存在とされており、ハスターもまた、人間の認識が高まることで現れる存在と考えられています。
2.2 ハスターの領域と影響
ハスターは、特定の空間や地理的な場所に結びついた存在として描かれることが多いです。以下のような場所が、彼と関連づけられています。
• カダス(Kadath):夢の国の果てに存在するとされる神秘的な場所で、ハスターの影響下にあるとされる。
• アルデバラン星系:ハスターはしばしばアルデバラン(おうし座の恒星)と関連づけられ、彼の故郷とされることもある。
• カルコサ(Carcosa):『黄の印』に登場する都市で、幻影や狂気の象徴として描かれる。
• ハリ湖(Lake Hali):カルコサの近くにあるとされる湖で、ハスターの影響が強い場所。
ハスターの影響は物理的なものというよりも、夢や幻覚、思想などの形をとることが多いです。彼の名を知り、「黄の王」の物語を読んだ者は次第に狂気へと陥るとされています。
2.3 ハスター信仰
ハスターを崇拝する信者たちは、クトゥルフ信者と異なり、秘教的な組織を形成する傾向があります。彼らはしばしば「黄衣の王(The King in Yellow)」を神格化し、禁断の書物を通じて知識を伝えます。
ハスターのカルトの特徴
• 黄の印(The Yellow Sign)の使用:このシンボルを見た者は、ハスターの影響を受けやすくなる。
• 劇『黄の王(The King in Yellow)』の存在:この劇を読んだ者は、狂気に陥ると言われている。
• 都市カルコサの伝説:カルトの信者は、カルコサが「現実の世界と交差することがある」と信じている。
クトゥルフ信仰がカルト的な秘密結社として描かれるのに対し、ハスター信仰はより知識人や芸術家を通じて広がる傾向があります。
3. ハスターの象徴と解釈
3.1 知識と狂気の境界
ハスターは単なる恐怖の象徴ではなく、**「知識を求める者の運命」**というテーマと結びついています。クトゥルフが物理的な脅威であるのに対し、ハスターは「言葉」「劇」「印」を通じて影響を与えます。これにより、彼は以下のようなメタファーとして解釈されることが多いです。
• 禁断の知識の象徴:彼の名前や『黄の王』の劇を知ることは、その人間の精神を破壊することにつながる。
• 芸術と狂気の関連性:特に創作者や学者に影響を与え、彼らを狂気へと導く。
3.2 禁断の劇『黄の王』
ハスターと密接に結びついているのが、ロバート・W・チェンバースの小説に登場する架空の劇『黄の王(The King in Yellow)』です。この劇を読んだ者は、次第に現実と幻想の境界を失い、狂気に陥るとされています。
• 第一幕は普通に読めるが、第二幕を読むと発狂する
• これは「知識を得ることの恐怖」を象徴しており、クトゥルフ神話の重要な要素である「知らないほうが幸せ」というテーマと一致しています。
4. まとめ
ハスターはクトゥルフ神話において、知識と狂気を象徴する神格であり、「黄の王」と結びつくことで文学的・哲学的な深みを持つ存在となっています。彼の影響は物理的なものではなく、夢や思想、言葉を介して広がる恐怖として表現され、クトゥルフ神話の中でも特異なポジションを持っています。
クトゥルフが「人間が抗えない圧倒的な存在」であるのに対し、ハスターは「人間が求める知識の果てにある恐怖」として描かれます。このため、彼の神話はクトゥルフよりも神秘的であり、哲学的な恐怖の側面を持っていると言えるでしょう。

